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【時事解説】日産カルロスゴーン氏の金融商品取引法違反による逮捕の原因となったストック・アプリシエーション・ライトを紹介する!

日産のカルロスゴーン氏が金融商品取引法違反の容疑で逮捕されることになりました。

一部報道によると、自らの役員報酬を50億円ほど過少申告していた、ということのようです。

今回の報道を聞いていて会計士としての立場からは、少し疑問が湧いてしまいます。

普段から有価証券報告書に慣れ親しんでいるものとしては、役員報酬の開示を間違えるということやあえて虚偽の記載をするということは考えにくいからです。

というのも、通常役員報酬はその金額に見合う額をキャッシュアウトしていますし、会社の決算書である損益計算書にも計上されているため、役員報酬が記載されている有価証券報告書の箇所との金額に相違があれば、すぐ気がつくからです。

適切な監査が実施されていたのだとすると、損益計算書に記載されている役員報酬の金額は正しいはずです。

そうすると役員報酬の開示の箇所の金額に誤りがあったと考えるのが普通なのですが、上記の通りその可能性はかなり小さいと思います。

しかも50億もズレていたとしたら、有価証券報告書を作成している経理担当者はさすがに気がつくはずです。

と思っていたら、記載漏れとなったのはストックアプリシエーションライトと呼ばれる株式報酬でした。

そこで本稿では、ストックアプリシエーションライトについてのご説明をしたいと思います!

SAR、Stock appreciation rights(ストックアプリシエーションライト)とは何か?

一部報道によりますと、カルロスゴーン氏はSARと呼ばれる株式報酬について有価証券報告書の記載をしないように指示したとされています。

SARとは、Stock appreciation rights の略であり、日本語に直せば、株価増分取得権利とでも訳せるかもしれません。

つまり、SARを取得した時点以降の株価の変動の差分が報酬となるものです。

また、あくまでも将来における株価の増価分の報酬を受け取ることができる権利であって、株式や新株予約権(ストックオプション)ではありません。

そのため、日本の現行の実務においてはストックオプションなどと比較するとそれほど普及していません。

Stock appreciation rights(ストックアプリシエーションライト)の利点・メリット

上述の通り、ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)は株式や新株予約権ではありません。

株式や新株予約権の場合は最終的にはそれらを売却することでキャッシュへと変換することが必要となります。

しかし、経営者にとって自社株を売買することには相応の制約が課せられています。

インサイダー規制

一つ目はインサイダー規制です。

経営者は投資家に比べると情報優位者であり、今後の株価に影響与える可能性のあるイベントをもっとも知りうる立場にあります。このような情報に偏在が生じている場合は市場に歪みが生じることになり、フェアーな取引を行うことができません。

そこで、法は情報の非対称性を解消した段階でないと情報を有している者の株式の売買を禁止しています。これがインサイダー規制です。

日本の法律であれば、これは金融商品取引法で規定されています。

経営者が売ると株価下がる問題

2つ目は株価下がる問題です。

これは上記の情報の非対称性と同様の議論ではありますが、当該会社に関する情報優位者である経営者が自社株式を売却したことが市場に伝播すると、今後当該企業の成長性は見込めないのではないか、というメッセージが経営者から市場に対して送られてしまいます。

経営者にそのような意図がなかったとしても、また、実際に当該企業の成長性は今後も相応に認められる場合であったとしても、経営者による株式の売却は市場に対してネガティブな印象を与えることになるでしょう。

そうすると、せっかく経営者の努力により株価が上昇したにも関わらず、いざ株式を売却する時点で大きく下がってしまっては結果として経営者に十分な報酬を与えることができなくなってしまいます。

そこで実質的には経営者が業務執行から外れた際など売却を行うことができるタイミングは実質的にはかなり限られてしまいます。

ストック・アプリシエーション・ライトであれば、インサイダーや株価下がる問題を抱える必要はない!

そこで考案されたのがSARストック・アプリシエーション・ライトです。

ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)は上述の通り株式でもなければ新株予約権でもありません。そのため市場へ売却することで投資の回収を行う必要がありません。

一定期間を経過した段階で基準となる株価をどれくらい上昇したのかさえわかれば、あとは企業から経営者に対して、差分の支払いが行われる仕組みなのです。

インサイダー規制も株価下がってしまう問題の両方もクリアーすることができるのが、ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)です。

Stock appreciation rights(ストックアプリシエーションライト)の欠点・デメリット

今までの説明のみだとストック・アプリシエーション・ライト(SAR)にはメリットしかないようにも思えますが、むろん、欠点もあります。

それは日本の税制を前提にすると、ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)を付与された経営者等が受け取ることになる報酬は給与所得となってしまう点です。

給与所得に該当する場合は最大で55%程度の税率が適用されてしまいます。

 

ストック・アプリシエーション・ライトの会計処理

上述の通り、ストック・アプリシエーション・ライトに関しては日本の実務ではそれほど普及しているとは言えないため、あまり会計処理に関しても議論されておりません。

一部のグローバルで展開している日産のような企業の場合にはストック・アプリシエーション・ライトを発行しているケースもあるとは思いますが、日系企業の大きな枠組みの中では圧倒的に少数であると評せざるを得ないです。

日本基準

日本基準においては、ストック・アプリシエーション・ライトを発行した場合の会計処理について、明記された基準はありません。

近いものですとストックオプションに関する会計基準は存在しますので、これを参考にして会計処理をある程度検討した上で、監査法人と協議の上個別に会計処理を検討していくことになろうかと思います。

IFRS

現金決済型の株式報酬として、ストック・アプリシエーション・ライトを包括する記載があります。IFRSではこのようなストック・アプリシエーション・ライトは決