今までの日本基準では想定されていないような会計処理であるため、この契約コストにどのようなものが該当するのか、いま会計の現場では議論が生じております。
むろん、すでにIFRS15号を適用している企業は監査法人ともディスカッションを終了しており、適切な開示がなされているものと思われます。
が、今後IFRSを適用することを検討している企業にとっては、どの範囲まで契約コストとして認められるのかを監査法人と適切に議論することが重要となってきます。
そこで本稿では基準書やその解説書に若干読みづらい記述を改めて、よりわかりやすいくだけた説明をすることで契約コストについての理解を深めることを可能にすることを企図します。
契約コストとは?
IFRS15号は、
①契約を獲得するために生じた
②増分コストが
③回収可能と認められる
場合には資産として計上することを求めています。
契約を獲得するためのコストとしてまず浮かぶのは、広告宣伝費でしょう。
しかし、広告宣伝費はここでいう契約コストには該当しません。
なぜでしょうか??
その答えは当該基準に該当するのが「増分コスト」であることに答えを求めることができます。
[box05 title=”増分コストとは?”]
契約を獲得するために生じたコストのうち、仮に契約が獲得されなかったならば発生しなかったであろうコストのことである!
[/box05]
広告宣伝費は事前のコストである一方でここでいう契約コストは事後のコストであるからです。
それではここでの事前と事後を分けるメルクマークは一体どのようなことになるのでしょうか。
それはもちろん、契約ですね!
契約の前後で、つまり契約の前にすでに費用が発生している場合は、契約締結の有無にかかわらず、コストは生じるわけです。
契約の後に、費用が発生する、さらに言えば、契約の締結がトリガーとなることで支払いが実行されるコストがここでいう契約コストになるのです。
そして実務的に重要となるのは回収可能と判断できる場合にのみ資産計上が求められるということです。
上記の二要件を満たしたとしても、回収可能性に疑義がある場合は資産計上することはできません。
さらに、一度資産計上した契約コストでも回収可能性に疑義が生じた場合は資産計上を継続することはできません。
そこで、回収可能性を測定するために減損テストが求められることになります。
[box04 title=”契約コストのまとめ”]
①契約獲得のためにかかったコストであること
②契約の締結がトリガーとなることで費用が発生するコストであること
③回収可能性が担保されるため減損テストに耐える必要があること
[/box04]
契約コストについての事例
契約コストの定義や考え方については上記でご理解いただけたかと思います。
しかし、この契約コストの具体例となるとすぐには浮かばないですよね。
まだ、基準が公表されて間もないこともあり、あまり事例もないのですが、楽天が事例を提供してくれます。
楽天株式会社2017年5月11日提出四半期報告書 第21期第一四半期
顧客との契約の獲得又は履行のためのコストから認識した資産
当社グループは、顧客との契約獲得のための増分コスト及び契約に直接関連する履行コストのうち、回収可能であると見込まれる部分について資産として認識しており、要約四半期連結財政状態計算書上は「その他の資産」に計上しています。契約獲得のための増分コストとは、顧客との契約を獲得するために発生したコストで、 当該契約を獲得しなければ発生しなかったであろうものです。
当社グループにおいて資産計上されている契約獲得のための増分コストは、主に顧客を獲得するために発生した入会関連費用です。
また契約履行のためのコストは、主に楽天カードの作成費用です。資産計上された当該入会関連費用は楽天カードへの新規入会者に付与した楽天スーパーポイントに関するコストであり、契約を獲得しなければ発生しなかった増分コストです。
なお、当該費用を資産計上する際には、カードの有効稼働会員割合等を加味した上で、回収が見込まれる金額のみを資産として認識しています。また、当該資産については、会員のカード利用による決済サービスの提供という履行義務が充足されるカード会員の見積契約期間に応じた10年間の均等償却を行っています。 また、契約コストから認識した資産については、計上時及び四半期ごとに回収可能性の検討を行っています。
検討に当たっては、当該資産の帳簿価額が、カード会員との契約が継続すると見込まれる期間に渡り関連するクレジットカード関連サービスと交換に企業が受け取ると見込んでいる対価の残りの金額から、当該サービスの提供に直接関連し、まだ費用として認識されていないコストを差し引いた金額を超過しているかどうか判断を行っています。
これらの見積り及び仮定は、前提とした状況が変化すれば、契約コストから認識した資産に関する減 損損失を損益に認識することにより、契約コストから認識した資産の金額に重要な影響を及ぼす可能性があるため、当社グループでは、当該見積りは重要なものであると判断しています。
前連結会計年度末(2016年12月31日)及び当第1四半期連結会計期間末(2017年3月31日)現在、当社グループが契約コストから認識した資産の残高は、それぞれ38,667百万円及び42,456百万円であります。
契約コストの会計処理
契約コストに該当した場合は上述の通り、資産計上が求められます。
当初認識後は定期的な償却がなされることになります。
その資産に関連する財またはサービスの移転パターンと整合する方法で規則的に償却し、場合によっては減損テストの対象とすることが求められます。
契約コストに関する記事
契約コストに関する情報で参考になるのは、KPMGの以下のサイトでしょう。
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わかりやすく契約コストについての記載があるためオススメです!
終わりに
契約コストに関する知見の整理はできたでしょうか?
契約コストの議論で重要なのは、契約という行為をメルマークとしてその費用の発生が事前なのか事後なのかがポイントとなってきます。
繰り返しになってしまいますが、事後に費用が発生する場合が契約コストに該当します。
事前の費用である広告宣伝費との違いについてはきちんと理解しておきましょう!
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