株式分割は単に発行済株式総数を増加させるものであり、企業価値に対してフラットであると理論的に考えられます。
また、株式分割自体は株式に関することであり、企業の財務諸表に対しては影響を及ぼさないため、株式分割が行われた場合でも、経理担当者は記帳という観点では、あまり注目しないことが多いかもしれません。
しかし、株式分割が行われた場合は財務諸表の本表には影響を与えないとしても、注記には影響を与えることになります。
そこで、本稿では、株式分割があった場合に留意すべき事項を取りまとてみます!
一株あたり情報がリステイトされる!
まずは少し長いですが基準を引用します。
30-2. 当期に株式併合又は株式分割(発行済普通株式のみ変化する場合であり、同一種類の株式 が交付される株式無償割当て等、株式分割と同様の効果を有する事象の他、時価より低い払込 金額にて株主への割当てが行われた場合に含まれる株式分割相当部分を含む。以下同じ。)が行われた場合、1株当たり当期純利益の算定上、普通株式の期中平均株式数は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首に当該株式併合又は株式分割が行われたと仮定する。また、 当期の貸借対照表日後に株式併合又は株式分割が行われた場合も、同様に仮定して算定する。
30-3. 当期に株式併合又は株式分割が行われた場合、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定上、第 21 項にいう普通株式増加数は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首に当該株式併合又は株式分割が行われたと仮定する。また、当期の貸借対照表日後に株式併合又は 株式分割が行われた場合も、同様に仮定して算定する。
59-2.当期に株式併合又は株式分割が行われた場合、行われた時点以降の期間に反映させる考え方と、遡及的に処理する考え方があるが、株式併合又は株式分割は期末に行われても既存の普通株主に一律に影響するものであるため、普通株主に関する企業の成果を示すためには、普通株式の期中平均株式数及び普通株式増加数を、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首に、当該株式併合又は株式分割が行われたと仮定して算定することが適当である(第 30-2 項 及び第 30-3 項参照)。
これは、株式併合又は株式分割の影響が、株価とともに1株当たり当期純利益にも反映されることによって、株価収益率(株価を1株当たり当期純利益で除した 率)が適切に算定されるという見方とも整合する。
59-3.当期の貸借対照表日後に株式併合又は株式分割が行われた場合は、本来、開示後発事象に該当するものであるが、国際的な会計基準では、当期の貸借対照表日後に株式併合又は株式分割が行われた場合も、当期に株式併合又は株式分割が行われた場合と同様、1株当たり当期純利益及び潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定に、当該株式併合又は株式分割の影響を反映している。
前項のとおり、株価収益率が適切に算定されるという見方との整合性や、国際的な会計基準 とのコンバージェンスの観点からも、株式併合又は株式分割が当期の貸借対照表日後に行われ た場合に、その影響を反映することが適当であると考えられる。
このため、平成 22 年改正基 準では、普通株式の期中平均株式数及び普通株式増加数を、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首に当該株式併合又は株式分割が行われたと仮定して算定することとした(第 30-2 項及び第 30-3 項参照)。なお、これは開示後発事象の例外的な取扱いであるが、いつの時点までに行われた株式併合又は株式分割の影響を反映するかの判断については、開示後発事象の開示に関する現行の実務に委ねられることとなる。
ここまで読めば理解できますが、期末日後に株式分割が実施された場合は遡及修正が行われることになります。
つまり、当期の有報においては前期の一株あたり情報の金額については当該株式分割が行われたものとしての数字へと変える必要があるのです。
この点は実務を担う経理の人ももちろん会計士でもうっかりしていることがあるかもしれませんので要注意事項となります。
後発事象に記載されるべき事項がある!
ここは結構盲点になります。
期中に取締役会で決議された場合は、後発事象に該当しないと考えてしまいがちです。
しかし、期中に決議が行われたこと自体は後発事象に該当しない場合でも、当該決議に基づき、実際の取引が期末日以降に行われた場合は、当該取引の発生が後発事象としての開示の対象となるのです。
むろん、当該取引は修正後発事象ではなく、開示後発事象として開示される事項です。
どのような事項が後発事象として開示すべきかどうかは以下のマトリックスを見ると理解ができると思います。
[box05 title=”後発事象に該当するかどうか!”]
決算日前 | 決算日後監査報告書日前 | 監査報告書作成日後 | |
① | 取締役会決議 | 取引の実行 | |
② | 取締役会決議 | 取引の実行 | |
③ | 取締役会決議 | 取引の実行 |
[/box05]
ケースごとにみていきましょう。
ケース①では、取締役会の決議が決算日後に行われています。そのため、当該取締役会の決議があったということを後発事象として開示することになります。
次に、ケース②ですが、こちらは取締役会の決議自体は決算日前に行われています。そのため、取締役会の決議自体は後発事象としての開示対象とはなりません。
しかし、決議に基づく取引の実行については、決算日後に行われています。
そのため、この取引の実行がなされたということが後発事象として開示されることとなります。
最後に、ケース③ですが、取引の実行が監査報告書の作成日後となっていますので、後発事象として開示すべき事項はないということになります。
何故ならば、開示すべき後発事象は現在の日本の会計基準では、期末日後から監査報告書の作成日までに生じた事項ということになっているからです。
しかし、監査報告書日以降に実施された取引がある場合もその旨を情報として開示することには投資家の意思決定に対して有用な情報を提供しているものと考えることができます。
そこで、ケース③のような場合は、後発事象としてはではなく、追加情報として財務諸表に注記として開示することになります。
決算短信のサマリー情報のところも影響を受ける
決算短信のサマリー情報にも株式分割をした場合には様々な項目が影響を受けることになります。
例えば、上述したように一株あたり当期純利益などは当然ですが、決算短信独自の項目としては、配当性向などがあります。
むろん、配当性向自体は決算短信以外でも使われますが、決算短信のサマリー情報では記載されておりますし、サマリー情報は個人投資家から機関投資家まで様々な投資家が目を通す資料ですので、誤りは許されません。
この意味で、配当性向の計算にも十分に留意が必要です。