プッシュダウン会計とは何か?企業買収時に発生する連結のれんを単体FSに計上する?

プッシュダウン会計をご存知でしょうか?

日本基準には存在しない概念ですし、そもそも聞いたことすらないという方が多いかと思います。
プッシュダウン会計を一言で表現すると、それは、支配獲得時において発生した「のれん」を連結財務諸表で識別するのではなく、被支配企業の個別財務諸表上で識別する会計処理のことです。
このプッシュダウン会計は、米国会計基準においては基準書ができています。
また、このプッシュダウン会計を行うとタックスメリットを享受することができるケースもあります。
この事実を知ってる場合と知らない場合では、バリュエーションにも影響を及ぼす可能性もあります。

バブル時代がピークであった日本企業によるアメリカ企業の買収もここ最近の好景気に後押しされ、徐々に増えているという観測もあります。

そこで本稿ではこのアメリカの会計実務において定着しているプッシュダウン会計について、ご紹介させていただきます。

プッシュダウン会計とは?重要ポイント!サマリー

プッシュダウン会計とは企業買収等による事業等の取得に際して、取得企業の取得原価(原則として、公正価値)をベースに、被取得企業の個別財務諸表における資産・負債の帳簿価額を修正(プッシュダウン)する手続のことです。

もう少し詳しく説明します。
プッシュダウン会計の説明で参考になるのは、持分の継続性とプッシュ・ダウン会計という論文になります。以下ではこの論文に基づいて説明を行います。
プッシュダウン会計では,企業の発行済議決権株式の所有(ownership)に実質的な変化を生じさせる取引があったとき,その取引にもとづいて,その企業の個別財務諸表で新しい会計の基礎が認識される(AICPA, 1979, par. 1)。
たとえば,ある企業が他の企業の発行済議決権株式を100%取得し,その企業を完全子会社化したとします。
このとき,取得企業は連結財務諸表上,被取得企業の資産・負債を公正価値に評価替えすることになります。
このタイミングでのれんが発生していれば連結上のれんを認識することになります。
ここで,プッシュダウン会計を適用すれば,完全子会社の個別財務諸表でも,その資産・負債が親会社の支払対価(取得原価)にもとづいて公正価値に評価替えされ,また,評価替えによる差額は払込資本として処理されることになります。
親会社の連結財務諸表上の会計処理が子会社の個別財務諸表にも押しつけられる(=プッシュダウン)わけです。
[box05 title=”プッシュダウン会計サマリー”]
✔︎:連結財務諸表上において、支配獲得時に子会社の資産負債を公正価値評価した結果を子会社の財務諸表の資産負債の評価にまで影響を及ぼさせるものである。
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プッシュダウン会計に関する基準書等

プッシュダウン会計の概要は上記で理解していただけでしょうか。
ここではきちんとした基準書や監査法人から出ている解説書をリファレンスしたいと思います。

日本語で読めるプッシュダウン会計

[box05 title=”あずさ監査法人の記事”]
あずさ監査法人のプッシュダウン会計の記事
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米国会計基準の基準書はこちら!

[box04 title=”KPMGのプッシュダウン会計の解説書”]Issues In-Depth Pushdown Accounting February 2015 kpmg.com[/box04]

プッシュダウン会計の背後に存在する会計理論

背後の会計理論を理解する必要性

プッシュダウン会計を行う背景にはどのような会計の理屈が存在するのでしょうか。
日本の会計基準に精通している人からすると、連結手続において発生したのれんを個別財務諸表に計上することには違和感があるかもしれませんね。

海外の基準書において、日本とは異なる会計処理がある場合は、必ずその背後にそのような処理を行うこととなった理屈が存在します。

この理屈を理解しないで、単純に結果のみを覚えたのみで、企業側の経理担当者であれば会計処理を行うと間違えるリスクは大きくなりますし、監査人であればクライアントに対して十分に納得感のある説明ができないことになります。

のれんの発生箇所を考える観点を理解する

日本基準ではのれんは連結調整仕訳で計上することになります。
つまり、連結したことによって、のれんが発生した、連結グループ全体でのれんが発生したと考えるのです。

これに対して、米国基準ではのれんは個別財務諸表の調整仕訳で計上することになります。
つまり、のれんは親会社による支配獲得によってシナジー効果などで子会社の収益力が上昇する結果として、あくまでも子会社自身の努力により生じるものと考えるのです。

ここにのれんがなぜ発生するのかの日米の考え方の違いを見ることができます。

このことは外貨建てののれんの換算をどのように扱うかの会計処理に端的に現れています。

「会計制度委員会報告第4号 外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 実務指針40項」を引用して見ましょう。

外国通貨で把握されたのれんの期末残高については決算時の為替相場により換算し、のれんの当期償却額については、原則として在外子会社の会計期間に基づく期中平均相場により他の費用と同様に換算します(実務指針40項)。

これによると、のれんの期末残高を決算時の為替相場により毎期換算することになります。
他方で、現行の会計基準となる前の基準ではどのような処理をすることになっていたのでしょうか。
この点は、新日本監査法人のサイトに記載があります。
参照して見ましょう。

(のれんの平成20年改正の改正点)
従来、在外子会社の取得により生じたのれんについては、親会社の通貨である取得時の円貨額で固定されているとの考えに基づき、取得時の円貨額で把握され、その後の為替変動による影響を受けないとされていました。
しかし、平成20年改正では、以下の理由によりのれんは外国通貨で把握し、決算日の為替相場で換算することとされました。

  • のれんの主要な部分は実質的に個別の認識の要件を満たさない資産を構成するものと考えられるため、在外子会社株式の取得により生じるのれんは当該在外子会社の他の資産と同様に、在外子会社の現地通貨で発生したものと見て換算することが整合的であるため。
  • 在外子会社の子会社(在外孫会社)の連結においては、親会社が在外孫会社の財務諸表を直接換算する場合と、在外子会社の連結財務諸表として換算する場合があるが、在外孫会社を資本連結する際に生じたのれんを決算日の為替相場で換算することにより、整合的に取り扱うことができるため。

出所:新日本監査法人HPー外貨建てのれんの換算

ここからわかることは、現在の会計基準に横たわる基本的な思考として、のれんは子会社の財務諸表のアロケーションの際に発生するものであり、あくまでも子会社の資産であると考えているということです。
もっと言えば、のれんはアロケーションする際に具体的にアロケイトできなかった残余部分であるので、それは子会社の財務諸表に帰属するものと考える方が自然だという考えでしょう。

この点を突き詰めて考えると被支配獲得企業の個別財務諸表にのれんを計上する議論となります。

日本基準においてプッシュダウン会計が今後必要となるかどうか問題

この点は今後の改正があるのかどうかに依存すると思われますが現時点でそのような議論はASBJにおいてなされていないようです。

しかし、上述した会計制度委員会報告第4号 外貨建取引等の会計処理に関する実務指針においてはアメリカの考え方に従った処理へと変更しているため、議論を突き詰めるとプッシュダウン会計が導入されてもなんらおかしいことではないでしょう。

プッシュダウン会計における税務上の論点

会計上発生したのれんの償却額は基本的には税務上では損金として認識されないのが原則です。

しかし、一定の要件を満たした場合は、のれんの償却額を損金として認めることがあります。

日本の税制上も税制非適格による組織再編によって生じたのれんに係る償却額は損金として認められています。
これは「資産調整勘定」と呼ばれています。

この資産調整勘定については、資産調整勘定の償却額が損金に算入されることから、将来の課税所得を圧縮することができるために、繰延税金資産の計上が必要となります。

プッシュダウン会計が適用された場合に、税務上もタックスメリットを享受することができるケースがあります。

ここでは詳細については言及しませんが、米国の会社をM&Aする場合などについてはこのプッシュダウン会計に関する税務上の取り扱いについても検討を加えることが必要になってくるものと思われます。

というのも、将来多額のタックスメリットを享受することができるのであれば、その影響は買収価額に反映させるべきとも考えられるからです。

実際にそのような米国の会社をM&Aする場合などが直近に想定されていない場合などにおいては、プッシュダウン会計の税務上の取り扱いについて詳細に知っておく必要はないかもしれません。

しかし、このことを頭の片隅においておけば、いざ、米国の会社をM&Aする場合に思い出して、買収交渉を有利に進めることもできるかもしれません。