2018年4月1日以後開始する事業年度から適用可能であり、2021年4月1日以後開始する事業年度から強制適用となる「収益認識に関する会計基準」が税務に与える影響がいま議論されています。
むろん、大きな趣旨としては、今までの実務に影響を与えないようにしつつも、バラバラであった収益認識に関する基準を米基準、IFRS間で統一したいというものではあります。
なので、確かに大きな意味ではそれほど影響はないのもかもしれません。
しかし公開された「収益認識に関する会計基準の適用指針」では、細かい点では従前の会計実務にある程度のインパクトを与えかねないものとなっています。
さらに、会計基準が変更されたことに伴い、その影響は税務にも大きな波として訪れ、既存の税務の理論的な体系に対してチャレンジを求めるに至っています。
このような内外の情勢を踏まえ、財務省および国税庁は今般収益認識に関する法人税法の改正に漕ぎ着けることになりました。
本稿では現状で公表されている資料を用いて解説を行なっていきます。
収益認識会計基準の制定
収益認識に関する会計基準の作成は長く日本の会計業界に属するものとして長年の願いでした。
なぜでしょうか。
日本の会計基準には収益の認識基準である実現主義についての言及が企業会計原則において規定されていますが、企業会計原則はすでに実質的にはあまり機能していない面もあります。もちろん、大原則中の大原則であるため、とても大事な考えではありますが、実現主義の2要件のみでは様々に複雑化する現代ビジネスの最先端の取引に対して、十分に対応することができないということもまた事実ではありました。
このような状況の中で、実務を行う経理担当者やその監査を行う会計士ももう少し実務上で使える目安のようなものや実現主義ではないもっとわかりやすい具体的なルールが欲しいと考えるに至っていました。
収益認識会計基準への法人税の対応
総論
各論
まずは法人税基本通達の対応の整備方針を見て見ましょう。
[box04 title=”法人税基本通達の対応の整備方針”]
①新会計基準は収益の認識に関する包括的な会計基準である。 履行義務の充足により収益を認識するという考え方は、法人税法上の実現主義又は権利確定主義の考え方と齟齬をきたすものではない。そのため、改正通達には、原則としてその新会計基準の考え方を取り込んでいく。
②一方で、新会計基準について、過度に保守的な取扱いや、恣意的な見積りが行われる場合には、公平な所得計算の観点から問題があるため、税独自の取扱いを定める。
③中小企業については、引き続き従前の企業会計原則等に則った会計処理も認められることから、従前の取扱いによることも可能とする。
[/box04]
上記の法人税基本通達の対応の整備方針においては、特に②のところに注目が必要かもしれません。
この記載は基本的には会計監査が必要となるような比較的大きな会社に対するメッセージではなく、全国に数多と存在する小企業に向けて書かれたものと解されます。
つまり、会計監査を受けているような大きな会社では恣意的な見積もりは行われないような仕組みが構築されており、かつ、監査の過程で恣意的な見積もりが行われた会計処理が発見された場合は是正するように促されることになり、結果として問題のない決算となっているからです。
他方で会計監査を受けていないような小企業ではどうでしょうか。
そのような会社は外部から決算書を見られるというようなことがないため、恣意的な処理が行われたとしてそれを是正することが難しいかもれません。
課税当局は一重に法人と言っても、東証一部上場企業から町の小企業に至るまで全国にある様々な企業を包括的な一つの基準を持って課税関係を整理する必要があります。
この辺りの状況を踏まえた記載となっているものと思われます。
収益認識会計基準に関する企業会計・法人税と消費税の相違点
法人税法が親なら消費税法は子。だけど…。
ある意味ではここが一番重要なポイントとなるかもしれません。
上述した通り、収益認識会計基準と法人税法の間は大きな差異はないように法人税側の理屈が企業会計基準の理屈に寄り添ってくれていました。
しかし、消費税法はどうなのでしょうか。
消費税が導入された当時は法人税の税収のインパクトは相当に大きく、消費税は付随的な位置付けでしたが、現在では消費税のインパクトの方が大きくなっています。
導入当初は法人税の理屈に可能な限り立脚し寄り添う形でしたが、税収の面で逆転したいま、法人税にいつまでも立脚する必要はないのでないか、そんな声もあるようです。
すなわち、フランスの哲学者であるジャックデリダが述べた代補のようです。
そのため、消費税は消費税独自の理屈を持つにいたろうとしているのです。
参考に国税庁のHPに記載されている内容を抜粋します。
[box05 title=”消費税についての留意点”]
今般の「収益認識に関する会計基準」の導入に伴い、法人税法等の改正が行われたところですが、取引の事例によっては、「収益認識に関する会計基準」に沿って会計処理を行った場合の収益の計上額、法人税における所得金額の計算上益金の額に算入する金額及び消費税における課税資産の譲渡等の対価の額がそれぞれ異なることがありますので注意が必要です。
次の事例は、「収益認識に関する会計基準」に沿って会計処理を行った場合に、会計・法人税・消費税のいずれかの処理が異なることとなる典型的なものとなります。
引き続き、処理が異なることとなる事例について適宜公表してまいります。
※ 消費税は、事業者が行う課税資産の譲渡等の取引を課税対象としており、売り手側の課税資産の譲渡等は、買い手側の課税仕入れとなります。
このため、原則として、法令等に規定する一定の取引や、例えば、資産の譲渡における棚卸資産の引渡しの日について、売り手側は出荷基準、買い手側は検収基準を採用しているなどの場合以外は、売り手側の課税資産の譲渡等に係る対価の額や時期とこれに対応する買い手側の課税仕入れに係る対価の額や時期が異なることにはなりません。
[/box05]
収益認識会計基準による会計と法人税、消費税に差異が生じる?!
このように代補された消費税と法人税。
[box05 title=”消費税のポイント”]
取引価格が必ずしも会計及び法人税法と一致するとは限らない!
[/box05]
法人税は会計に擦り寄りますが、消費税は独自の路線を進もうとしています。
国税庁が出している消費税資料によると今のところ6つのケースについては、消費税が独自路線に行こうとしていると指摘しています。
ケース1 自社ポイントの付与(論点:履行義務の識別)
ケース2 契約における重要な金融要素(論点:履行義務の識別)
ケース3 割戻を見込む販売(論点:変動対価)
ケース4 返品権付き販売(論点:変動対価)
ケース5 商品券等(論点:非行使部分)
ケース6 消化仕入(論点:本人・代理人)
終わりに
収益認識の会計基準が出たことによる税務への影響を法人税については課税当局は正面から受け止め、そして、できる限り実務に大きな影響がないような方針で、しかし税の観点から譲れない一線に関しては、自らの意見をきちんと主張する、そんな結果になっていると思います。
しかし他方で、消費税の方はというと、法人税のように企業会計に大きく依拠するという考えからは乖離しようとしています。
この税法に関する大きな流れをしっかりと理解しておくことが経理担当者としては必要なことであろうと思い、本稿を執筆することとしました。
少しでも皆様方のお役に立てたとしたらこの上ない喜びです。