今回はソフトウェアにかかる会計処理についてまとめてみたいと思います。
IT系の企業にとって、ソフトウェアに関する会計処理はなかなかに多くの問題を内包する厄介な問題の一つです。
また、ソフトウェアの会計基準は公表されてからある程度時間が経過しています。
さらに会計基準に記載されている内容が抽象的であり、実務を意識した記載になっていないこと、会計基準が出来た時点から現在に到るまでにめまぐるしくITに関する技術が進歩していること。
などなど現行のITの技術そのものやITを利用した様々なビジネスと会計基準が想定している会計処理との間に乖離が生じている可能性が指摘されています。
このような状況の中、ソフトウェアに関する会計処理を一度きちんと整理し、現在のITを取り巻く技術にも合致した会計処理および内部統制が求められています。
そこで本稿では、ソフトウェアに関する会計処理、とりわけSEO対策の会計処理などについて考察していきます。
Contents
ソフトウェアの会計基準にはどんなものがあるの?
まずはソフトウェアに関する会計処理を概括的に把握するためにも、会計基準としてはどのようなものがあるのかについて、改めて整理してみることからスタートします。
代表的なものは研究開発等に係る会計基準や研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針などがあります。
[box04 title=”基準はこちらで!”]
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ソフトウェアとして資産計上するためのフロー
ソフトウェアとして資産計上することができるかどうかを判断するためには以下のフローで考えるとわかりやすいです。
会計基準では文章の羅列となっており、若干理解がしづらいので、ここではソフトウェアとして資産計上するための要件をまとめてみました。
[box05 title=”要件!”]
①支出がソフトウェアの定義を満たすか否か
②ソフトウェアの定義を満たすとして、その支出が研究および開発に該当するか否か
③研究および開発に該当しない場合において、将来の収益獲得及び費用削減が確実であると言えるか
[/box05]
上記のフローが理解できれば、あとはそれぞれの言葉の意味を理解すれば、ソフトウェアを資産計上するための要件を理解できたことになります。
そこで、以下では、ソフトウェアの定義、研究開発の定義、将来の収益獲得及び費用削減の考え方について説明を行なっていきます。
「ソフトウェア」の定義について確認しよう!
「ソフトウェア」の会計基準上の定義については、「研究開発費等の会計基準」の一定義のところに記載があります。
ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう。
簡単に言えば、「プログラム」であることがソフトウェアの要件です。
この定義、つまり、「プログラム」であるようなものが会計上のソフトウェアとして認められるということになります。
基本的には一般的にソフトウェアと呼ばれるものと一致しているものと思われます。
しかし、この定義では実務に耐えうるものではないので、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針においてより詳細な定義がなされています。
ソフトウェアの概念・範囲
6.本報告におけるソフトウェアとは、コンピュータ・ソフトウェアをいい、その範囲は次のとおりとする。
①コンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラム
②システム仕様書、フローチャート等の関連文書
7.コンテンツは、ソフトウェアとは別個のものとして取り扱い、本報告におけるソフトウェアには含めない。
ただし、ソフトウェアとコンテンツが経済的・機能的に一体不可分と認められるような 場合には、両者を一体として取り扱うことができる。
先ほど「プログラム」であることが要件であると言いましたが、実務指針のポイントとしては、システム仕様書やフローチャート等の関連文書などもソフトウェアに該当するということになる点です。
一瞬、感覚的にはソフトウェアを構成するものではないものと考えられそうですが、会計基準上は含まれるということになります。
さらに、基本的にはコンテンツはソフトウェアには含まれないことが明記されていますが、混然一体となっているような場合は、一体として取り扱うことも可能とされています。
研究とか開発って何?
ソフトウェアとしてBSに資産計上できるものは、まずソフトウェアの定義に該当する支出であることが求められることは上述の通りです。
もっとも、上記のソフトウェアの定義に該当したもののうち、研究開発活動に当たる部分については、研究開発費として発生時の費用として処理されることになります。
つまり、ここで、重要なことは、ソフトウェア制作費のうち、研究開発にかかる部分については資産計上をすることができないということです。
そこで、次に問題となるのが、研究や開発というのはどのようなものが該当するかということになります。
研究の定義
「研究」の会計基準上の定義については、「研究開発費等の会計基準」の一定義のところに記載があります。
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。
開発の定義
同じく開発の定義についても「研究開発費等の会計基準」の1定義のところに記載があります。
開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。) についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若 しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。
開発の方はすこし理解しづらいかもしれませんね。
研究及び開発に関する定義のみを理解しようとしてもなかなか難しいので、会計基準でも記載されている典型例をみて、理解を深めてみましょう。
研究・開発の典型例
研究・開発の典型例は、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針の2項に記載があります。
1 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探求
2 新しい知識の調査・探求の結果を受け、製品化又は業務化等を行うための活動
3 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
4 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
5 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
6 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
7 新製品の試作品の設計・製作及び実験
8 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
9 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
次の章ではいよいよソフトウェアとして資産計上する際にもっとも重要な要件となる「将来の収益獲得及び費用削減の確実性」について解説を行います。
ソフトウェアを資産計上するための論拠である「将来の収益獲得あるいは費用削減が確実な場合とは?
これについては、市場販売目的によるソフトウェアの場合と自社利用目的によるソフトウェアの場合によって、異なる記載が会計基準ではなされています。
SEO対策にかかる支出を資産計上するか否かという観点からは、市場販売目的によるソフトウェアに該当する可能性は低いと考えられるので、ここでは割愛することとします。
むろん、SEO対策を生業としている会社にとってはもしかすると市場販売目的によるソフトウェアとして計上するようなケースもあるかもしれませんが、そのようなケースはそこまで多くはないでしょう。
ですので以下では自社利用目的によるソフトウェアによるケースに限定して議論を継続することとします。
自社利用目的によるソフトウェアに関する支出を資産計上するための論拠は、「将来の収益獲得あるいは費用削減が確実な場合」という旨の記載が会計基準ではなされています。
「将来の収益獲得あるいは費用削減が確実な場合」とは具体的にはどのような要件を満たすことで確実であると言えるのかがポイントとなります。
SEO対策に係る支出って資産計上できるの?
本稿をここまでお読みいただいた方はお気づきかもしれませんが、SEO対策に関する支出をソフトウェアとして資産計上することができるかどうかについては現在の会計基準ではそのままズバリの記載はありません。
ですので、原理原則に立ち返りまして、将来の収益獲得あるいは費用削減効果が明らかであるかどうかに従って、個別に判断していくことになろうかと思います。
むろん、SEO対策をしっかりと行い、googleにおける検索順位がしっかりと上昇していれば、結果として収益獲得に寄与するでしょうから、資産性を満たしているとも言えそうです。
ただし、厄介なのはSEO対策を行えば100%グーグルにおける検索順位が上昇するかどうかは保証されていないでしょう。
さらにいえば、SEO対策が成功したことでグーグルの検索順位が上昇したとしても、そのことが直ちに将来の収益獲得に貢献するのかといえば、必ずしもそうであると言い切ることまでは厳しいと思われます。
この辺りの因果関係を明確に示すことで、仮に資産性を監査人に対して示すことができるのであれば、SEO対策に係る支出額もソフトウェアとして計上することもできるものとも思われます。
ソフトウェアに該当するの?
SEO対策と一言で言っても、様々な施策が行われるものと思われます。
BSにソフトウェアとして資産計上するためにはソフトウェアの定義を満たす必要があるので、ソフトウェアの定義に該当しないようなSEO対策費は少なくともソフトウェアとして資産計上することはできません。
研究及び開発に該当しない?
SEO対策費がソフトウェアに該当する場合において、その支出が研究・開発活動と認められる場合は、研究開発費として発生時の費用処理としなければなりません。
SEO対策費が研究および開発活動と認められる場合とは、例えば、新しいSEO施策を試すことでグーグルの検索順位の推移を確かめるための支出などが考えられると思われます。
将来の収益獲得あるいは費用削減が確実であると言える?
研究開発活動ではないと認められたSEO対策費がソフトウェアとして資産計上されるためには、最後の要件である「将来の収益獲得あるいは費用削減が確実」であると言えるかどうかにかかっています。
ここが資産計上するために一番重要なポイントでしょう。
SEO対策費によって、グーグルでの検索順位が上昇し、そのことでCVR(コンバージョンレート)が大幅に改善されることが経験的にわかっている場合などは、将来の収益獲得が確実であると認定する余地がありそうです。
ですので、SEO対策費をソフトウェアとして資産計上したい経理担当者は、将来の収益獲得の確実性について、過去の自社におけるSEO対策の有効性を監査人に示すことでソフトウェアとして資産計上することを認めてもらうということが必要になります。
しかし、一般的に言って、SEO対策に関する支出はその効果が明確と言えるのかどうかを客観的に立証することは厳しい場合が多いと思われます。
結論_SEO対策費用は資産計上できるのか?
結論から言えば、SEO対策費を資産計上することは全くできないということはないでしょうが、ハードルは相応に高いということになりそうです。
ただし、絶対にダメということはないと思われますので、そこは将来の収益獲得の確実性について会社としての主張を明確に行えることができるような準備をすることが求められるものと考えます。
データコンバート費用やトレーニング費用は発生時費用処理
旧システムから新システムへの移行の際にデータをコンバートするためにかかる費用については発生時の費用として処理することが会計基準で明記されています。
以下基準を引用します。
16.ソフトウェアを利用するために必要なその他の導入費用については、次のとおり処理する。
(1) データをコンバートするための費用
新しいシステムでデータを利用するために旧システムのデータをコンバートするための費用については、発生した事業年度の費用とする。
(2) トレーニングのための費用
ソフトウェアの操作をトレーニングするための費用は、発生した事業年度の費用とする。
これは将来の収益獲得および費用削減の効果が確実とは言えない支出であるためです。