税率差異の注記は一年に一度の本決算のタイミングでしか作成をしません。 そのため、税率差異の作成の仕方を覚える機会はそれほどないですし、しかもその仕組みを理解することのハードルは相応に高いため、苦手としている経理担当者、あるいは会計士でも得意な人は少ないかもしれません。 そこで、本稿では税率差異の注記で差異内容がつまらない場合に、代表的な調整項目を事前に把握することでスピード感のある注記作成を支援することを、目的とします。
Contents
税率差異の概念を整理する!
まずは税率差異が生じるメカニズムをおさらいしましょう。 本来税効果会計が正しく適用されている場合は、法人税等調整前当期純利益に対して実効税率を乗じることで税金費用を計算することができるはずです。 しかし、実際にはこのような計算をしたとしても、両者(実際に計算された税金費用と法人税等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額)が一致することは稀です。 なぜでしょうか? それは、会計上ではその期の費用・収益にになるけれども税務上では損金にならないものや反対に、会計上の費用・収益とはならないけども税務上ではなるものがあるからです。 このような項目を税効果会計上では一時差異と呼んでいます。 一時際に対して全て税効果を適用している場合は、実際に計算された税金費用と法人税等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額は一致することになります。 しかし、何らかの理由で税効果会計が適用されていない一時差異がある場合には両者は一致しないことになります。 そこで、①なぜ両者がずれてしまっているのかを明確にして、財務諸表利用者に適切に開示するため、②経理担当者や監査人が税効果会計が正しく実行されていることを確かめるため、に税率差異分析を行うこととなります。
税率差異の代表的な調整項目
個別財務諸表における税率差異の調整項目
税率差異注記を理解するためにまずは個別財務諸表で作成される税率差異の注記項目をきちんと理解することが大切になります。 以下に記載する事項は税率差異の注記作成を行う上で避けては通れない基本的な事項となります。 どのような項目が税率差異を発生させる要因になるのかを先に列挙しますと、
などがあります。 以下では順番を追って、なぜ税率差異となるのか、さらに税率差異になるとして、上昇方向なのか下降方向なのかを説明することとします。
永久差異
永久差異が税率差異になることはわりと有名でしょう。 理由は次の通りです。 全ての差異について税効果が認識されているとした場合は、税金等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額が税金費用となるはずです。 しかし、現実的には様々な理由から税金費用は税金等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額から乖離します。 それは税金等調整前当期純利益と課税所得は異なるから(会計上ではその期の費用・収益にになるけれども税務上では損金にならないものや反対に、会計上の費用・収益とはならないけども税務上ではなるものがあるから)である。 つまり、両者が一致しているのであれば、税金費用も一致するはずです。 しかし、両者が一致することは極めて稀である、いや一致することはないと言っても過言でもないでしょう。 両者に差異をもたらすものの一つが永久差異と呼ばれるものになります。
交際費・寄付金
交際費と寄付金が税率差異になることも同様に有名でしょう。 なので、経理担当者や会計士もこのような項目については、さすがに知っていますよね。
交際費や寄付金については会計上は全て発生時に費用として認識されます。 しかし、交際費や寄付金について無制限に損金として認めてしまうと税務上は税金をいくらでも少なくすることが可能となってしまいます。
そのため、税務上では交際費や寄付金について一定の制限を課しており、その全てが損金として計上することができないようにしています。
このことから会計上は費用となるが、税務上は損金とならないために、ここに会計と税務で差異が生じることになり、 永久差異が発生することになります。
役員報酬損金不算入
役員報酬に関しては、事前に税務署に届けておけば、損金算入されますし、もっと言えば、定期同額給与(毎月同額を支払うこと)であれば損金に算入されます。
しかし、そうではないケースの場合は、損金に算入できないことになります。
例えば、事前届出を出さずに役員に対する報酬をあげてしまうことがあげられます。 この場合は永久差異となるため、税率差異となってしまいます。
受取配当益金不算入
受取配当金は以下のようにその区分ごとに益金として算入される金額が計算されます。 そして、不算入となる受取配当金については申告書上、加算・社外流出として記載されることになります。 社外流出となる調整項目は基本的に永久差異となります。
区分 | 保有割合 | 計算式 |
完全子法人株式等 | 100% | 配当等の全額 |
関連法人株式等 | 1/3超 | 配当等の全額ー負債利子 |
その他の株式等 | 5%超1/3以下 | 配当等の50% |
非支配目的株式等 | 5%以下 | 配当等の20% |
外国子会社受取配当益金不算入
上述の通り、受取配当金については益金不算入となることが原則です。 これは外国子会社からの受取配当金でも同じです。 ただし、従前は外国子会社からの配当については一旦益金に算入した上で外国税額控除の仕組みを採用していました。 現在も外国税額控除の仕組みは存在しますが、益金不算入となったことから、現在ではかつてほど利用されていません。
完全支配関係者間の寄付金
完全支配関係がある法人間の寄付金においては、親会社の寄付金の全額が損金不算入(法法37条2項)となります。 さらにこの損金不算入については永久に解消することはないため、永久差異となります。
完全支配関係者間の受贈益
上述の対応関係で完全支配関係がある法人間の寄付金においては子会社の受贈益の全額が益金不算入になります(法法25条の2)。 この益金不算入についても永久に解消することはないため、永久差異となります。
過小資本税制
過大支払利子税制
未確定債務で将来減算効果がないもの
代表的なものとしては、役員賞与引当金が該当します。 役員賞与引当金は、別表上加算・留保、翌期減算・留保、加算・社外流出となりますが、永久差異となることに留意が必要です。
株式発行法人に対する株式譲渡
完全支配関係者間で株式の譲渡などがあった場合には、会計上譲渡損益が計上されたとしても税務上は「資本金等の額」として処理されることとなり、この差異は永久差異であるため、税率差異となります。
のれん償却費
単体上でのれんが計上されるケースがあります。 これは、会社を買収したことで発生したのれんを連結上認識いる場合において、その後に当該子会社を合併した場合などに生じます。 このような場合におけるのれんも償却は行われることになりますが、こののれん償却費については税務上は損金算入(社外流出)されません。 このため、のれん償却費に関しては永久差異となり、税率差異を生じさせる要因となってしまいます。
抱合せ株式消滅差損
会計上の抱合せ株式消滅損は、税務上は損金不算入となるため、別表四で加算することになりますが、この差異は永久に解消することはありません。 そのため永久差異となり、税率差異を生じさせる要因となってしまいます。
抱合せ株式消滅差益
会計上の抱合せ株式消滅益は、税務上は益金不算入となるため、別表四で減算することになりますが、この差異は永久に解消することはありません。 そのため永久差異となり、税率差異を生じさせる要因となってしまいます。
タックスヘイブン対策税制により益金参入された特定外国子会社等の課税対象金額
合算課税済利益配当の益金不算入採用した法定実効税率と当該所得の課される税率との差異によるもの
中小法人等に対する軽減税率
特定同族会社の特別税率
国外支店に係る所得
課税所得と直接連動せず税額を増加/減少させる項目
税率差異分析は税金費用は課税所得に連動して変動するものという前提がありますが、実際には税金費用として計上されるものの全てが課税所得をベースにして計算されるものとは限りません。 以下で解説するように「住民税均等割」などは課税所得の有無とは関係なしに税金の金額が決定されるため、税率差異を発生させる要因となります。
租税特別措置法上の税額控除
課税所得×実際税率として計算された金額から特別控除額を差し引くため、その結果算出された税額は理論値(税金等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額)より少なくなります。
住民税均等割
住民税均等割は法人の利益に関係なく課される税金です。 住民税均等割の税額は利益に連動しないものの、住民税は損益計算書上、「法人税、住民税及び事業税」として税引前当期純利益の下に記載されることとされています。 したがって、会社の法人税等負担額は住民税均等割の分だけ当期純利益から導き出される理論値より大きくなることから、税率差異の発生要因となります。
控除対象外所得税
外国税額控除
外国税額控除の制度の詳細をここで言及することは省略しますが、外国での支払いを行なった税金について日本の税額の支払いを減少させることができるものがあります。
損金算入外国法人税
会計上の未払法人税額と実際の納付額の差異 過年度法人税等
これはいわゆる「タックスクッション」と呼ばれるものが該当します。
タックスクッションとは、決算を締めるにあたって、きちんとした税務計算を行うことができないような場合に、納付に当たって正確に税務資料を作成した場合などに誤りが生じた場合に備えて、計算ロジックとは乖離した方法によって、過剰(あるいはケースによっては過少ということもあるのかもしれないです)に計上しておくことです。
タックスクッションは税額計算のロジックとは別のロジックによって計上されるものであるため、税率差異を発生させてしまいます。
法人税等調整額
評価性引当額の増加
評価性引当額が存在するということは税金等調整前当期純利益に実効税率を乗じた金額と税金費用は一致しませんね。 これは比較的すぐに理解ができると思います。 ここで問題となるのは、評価性引当額が増加した際に、負担率は上昇するのか下落するのか問題をクリアにすることです。 結論から言えば、評価性引当額の増加は繰延税金資産の計上を結果として減少させることになります。 つまり、分子である税金費用を増加させることとなります。 分母である税金等調整前当期純利益が一定であると仮定すると、分子の増加により負担率は上昇することになります。
評価性引当額の減少
評価性引当額の減少については、増加の場合と反対の結論となります。 ですので、負担率は下落することになります。
繰越欠損金の期限切れ
税引前当期純利益の金額と直接連動することなく、法人税等調整額が追加的に計上・取り崩しされるため、税率差異の発生要因となります。
税率変更に伴う繰延税金資産取り崩し
税引前当期純利益の金額と直接連動することなく、法人税等調整額が追加的に計上・取り崩しされるため、税率差異の発生要因となります。
寄付修正
連結財務諸表における税率差異の調整項目
海外子会社税率差異
税率は各国によって異なります。
一般的には親会社の税率にて税率差異分析は実施しますが、親会社(多くは日本の税率かと思います。)の税率と子会社が存在する国の税率に差異がある場合は、当然に税率差異の要因になります。
留保利益の税効果
留保利益の税効果、すなわち子会社の投資に対する税効果は、投資額である帳簿価格と連結上の簿価との差分を一次差異と考えることで、認識される税効果です。
投資に対する税効果は当該子会社への投資を継続することが前提であれば、無制約に認識することはできません。
あくまでも回収可能と判断することが可能な範囲において税効果が認識されることになります。
税率差異注記をアウトソーシングする場合はこちらから!
税率差異注記の作成がどうしても煩わらしい、あるいは決算作業を少しでも緩和したいという経理の方は注記のアウトソーシングも視野に入れることも選択肢の一つかと思います。 ぜひ、まずはご相談から!