のれんとは何か?のれんの本質から実務的な計算の仕方について

のれんとは何か?

 

一般的には超過収益力そのものあるいは超過収益力の源泉であると説明されています。

 

しかし、そもそも超過収益力という説明自体もイマイチわからなかったりしますよね。

 

さらに、のれんについては会計基準でも明らかにされていない面もありますし、実務的にもイマイチ理解できないところもあります。

 

そこで本稿ではできる限りのれんについての本質やのれんの考え方を学術的なものも踏まえて網羅的に紹介するとともに、最新ののれんに関する学術的な考えを紹介します。

 

これを読めばのれんに関する実務的な論点から会計学の最新の論点までをざっくり把握できます!!!

 

のれんとは?

 

のれんとは何か?

 

これは会計の本質に関わるとても重要な問いになります。

 

正直なところ、公認会計士にこれを聞いても正確な回答を言える人はほとんどいないでしょう。

 

いや、実際に公認会計士の人に「のれんとは何ですか?」と聞くと、

 

「そんなん知ってますよ。M&Aの時に支払った金額と買った会社の純資産の差額でしょ?

 

とか、「超過収益力のことでしょ?」とかとか。

 

そんな回答をする人が多いと思います。

 

これはこれで実際に一面としては正しいです。

 

しかし、一言で”のれん”と言っても、その構成要素には様々なものが含まれていることが多く、超過収益力ももちろん含まれているでしょうが、それ以外の要素も含まれていることが多いと思われます。

 

のれんの定義として、もっとも本質を付いてる定義は、「事前の期待が資本化されたものであり、期待が実現されれば企業の正味資産に置き換わるもの」というものです。

 

書いてて思いましたが、この定義はわかりづらいかもしれませんね笑

 

しかし、現代会計を理解するためにはこののれんの定義を理解することがとても重要になってきます。

 

もっとわかりやすい言葉に翻訳すれば、のれんとは「なんとなく将来はこうなるだろうという予想のことであり、この予想が的中すれば、企業の資産を増やすであろうもの」という感じになります。

 

つまり、のれんとは将来の期待、すなわち、企業が予想する将来キャッシュフローの総量を現在価値に直したものと、とも言えるでしょう。

 

ここまでの説明でのれんについての理解が深まった人はもともと、それなりに会計の知見があった人でしょう。いきなり説明の速さをトップスピードまであげてしまった感があるので、会計の初心者の方にはわかりづらかったかもしれません。

 

そこで以下ではのれんの直感的な理解の仕方について解説します。直感的に理解してから、上述したのれんの本質に関わる定義や考え方に戻って、理解を深めてください。

 

 

のれんの直感的な理解の仕方

 

前稿までは会計学の基本的な考え方に立脚したのれんの説明の仕方でした。

 

現代会計を正確に理解するためにはのれんの正確な理解は避けては通れません。
最終的には必ず理解しなければならない最重要項目の一つです。

 

しかし、これでは初めてのれんの勉強をする人には少しハードルが高い結果となってしまっているかもしれません。

 

そこで、ここでは、より直感的で簡単な事例を元にして理解できるような説明をします。

 

まず考えてみるのは、たこ焼き屋を開業して、一儲けを企んでいるA君です。

 

サラリーマンとして5年間ちゃんと働き、貯金をなんとか300万貯めることができました。

 

これを元手にして、たこ焼き屋を開業するために必要な物を購入し、開業することを企図しています。早速貯めたお金で必要な資材を購入することにしました。

 

鉄板やたこ焼き屋の旗に100万円かかりました。さらに、原材料や移動販売を想定しているので車なども購入して、追加で200万かかりました。

 

その際に合計で300万円かかって購入した資産はBSに計上することとしました。

 

その後無事に収益をあげれるようになり、3年が経過しました。

 

そうしたところ、このたこ焼き屋の人気を聞きつけた人がたこ焼き屋を売って欲しいと言ってきました。

 

その人は売買価格は資産として計上されている上記の300万でどうだろうか?と主張しています。

 

A君は難色を示しました。なぜでしょうか?

 

確かに資産として帳簿に計上されているのは300万かもしれませんが、このたこ焼き屋は将来キャッシュフローを生み出す能力がある、つまり営業を継続している限りA君のところにお金が入ってくるからです。

 

将来のお金が入ってくることがある程度確からしいにも関わらず、昔に購入した資産の金額でたこ焼き屋を売る人はいないでしょう。

 

その将来キャッシュフローを生成する権利としてのたこ焼き屋を帳簿に計上されている資産の金額だけで売買価格を判断するのは、売主(ここではA君)からすると違和感、つまり割安に感じてしまうでしょう。

 

こうした時にお互いがある程度納得いくような価格の決め方とはどういうものになるでしょうか。

 

それはこのたこ焼き屋がある程度合理的な将来期間において獲得するであろう将来キャッシュフローを合計した金額ではないでしょうか。将来これだけのお金を稼ぐことができるとわかっているのであれば、少なくともそれを合計した金額が売買価格でないとA君は売却する意思を持たないでしょう。

 

むろん、ここでは貨幣の時間価値についてはとりあえず無視しました。

 

まとめますね。

 

[box05 title=”事業を売買する際の合理的な価格の決定”]
✔︎:その事業が将来稼ぐであろうキャッシュフローを合計した金額
[/box05]

 

自己創設のれんはBSに計上されない

 

次にのれんに関する重要なこととして、自己創設のれんはBSに計上されないということがあります。

 

自己創設のれんとは、経営者自らが経営努力を通じて構築したノウハウなどの超過収益力のことである。

 

のれんは別に企業買収の際にのみ生じるのではない。

 

理論的には長年事業を行なっている企業には必ずのれんが存在しているはずである。

 

ただし、この自己創設のれんをBSに計上されることは現在の企業会計にはない考え方です。

 

いや、正確には自己創設のれんをBSに計上するという考え方自体はあります。

 

というかIFRSは一時期、これを目指して会計基準を作成していました。

 

IFRSはかつてIAS、国際会計基準と言われていましたが、現在では国際財務報告基準、すなわちinternational financial reporting standardsとなっています。

 

つまり、会計基準から財務報告基準へと変革を遂げているのです。

 

これは、潜在的には、会計からの離脱を考えていたと評することが可能です。

 

どういうことでしょうか。

 

IFRSを作成しているIASBは複式簿記からの離脱を将来的には実行したいと考えているのです。これはなぜでしょうか。一つには複式簿記の構造自体が少し複雑であるということがあります。ある程度訓練をしないと簿記特有の考え方を理解することができません。

 

この点で簿記は万人に受け入れられるものではない可能性があります。

 

さらに言えば、現在の財務諸表は無形資産に関する評価がほとんど計上されていないという指摘があります。

 

GAFAと呼ばれる企業をご存知でしょうか。

 

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いずれも現代の中心的な企業ですが、大きな有形固定資産を有しているようには思えません。

 

ここで話を少し脱線します。

以下の会計士の歴史を取りまとめた資料を見てください。

 

ここで重要なのは、会計はその当時において、もっとも重要なもの、つまり時代を表すものと密接に関連してその進化を遂げてきたという事実です。

 

19世紀においてはまさに産業革命が生じ、「」の時代が到来します。この「」の時代において重要となるのは「有形固定資産」です。というのも、機械がなければ物を製造することができないのは自明だからです。

 

なので、この「有形固定資産」をどのように会計処理するのかが論点となり、「減価償却」の概念が生み出されたのです。

 

翻って、現在は情報の時代でしょう。先ほどのGAFAを見てもいずれも情報がビジネスにおけるのれんそのものとなっていることに異論はないと思われます。

 

そうすると、そのような超過収益力の源泉となっている情報をどのように会計で表すかが問題となってくるのです。

 

このような背景から、自己創設のれんをBSに計上することが現代社会における企業の競争源泉を適切に財務諸表に表すことができる、と考える人たちも出てきているのです。

実務的なのれんの計算の仕方

 

上述のとおり、会計学的にはのれんはさまざまな観点で考察を加えるべき要素があり、難しい論点なのですが、実務的にのれんの金額を確定させることは技術的にはそれほど難しくありません。

 

むろん、被買収会社の財務諸表の数値が固まらないなどの要因によって、のれんの金額が固まらないということはありますが、それはどちらかといえば、技術的な問題というよりは被買収会社の管理体制の脆弱性や土地や有価証券などの時価の金額が確定しないなどの実務においてなんらかの障害が発生したためでしょう。

 

のれんの計算に必要な前提が全て存在している状態で単にその金額のみを計算するということであれば技術的には全くと言っていいほどに難しいものではありません。

 

もっとも、ここではのれんの概念を理解するためのざっくりした説明とより実務に適用可能な詳細な説明の二つを用意することとします。

 

のれんの計算の仕方簡易版

 

これはのれんの金額をざっくりと把握するためには、この計算式を覚えておくと良いと思います。

  のれんの金額:買収対価ー被買収会社の純資産

 

この計算方法を覚えておけば、経営者からざっくりとしたのれんの金額をいますぐ計算して!と言われて暗算で計算できると思います。

 

ですので、必ず暗記しておきましょう。

 

のれんの計算の仕方詳細版

 

 

 

のれんの構成要素についての考察

 

のれんの金額の実務的な産出の仕方について、ここではその構成要素について考えてみたいと思います。

 

のれんと一言に言っても、単純に超過収益力を表さないこともあります。

 

なぜでしょうか。

 

それは例えば、買収する際に同じ会社の買収を狙っているライバル会社が存在している際にビットとなり、価格が釣り上がってしまった場合を考えるとわかります。

 

このような場合は、売買価格が想定以上に上昇してしまい、超過収益力の源泉に対する支払い以上の支払いを行ってしまっている可能性があります。

 

そこで、以下では結果としてBSに計上されるのれんの中に含まれる要素についてIFRSの基準書に記載された内容を引用しつつ検討を加えてみたいと思います。

 

なお、のれんの構成要素についてはIFRS第3号BC313項によって記載がなされています。

 

それぞれ見ていきましょう!

 

構成要素1:
取得日時点の被取得企業の純資産の帳簿価額に対する公正価値の超過分

 

これは簡単に言えば、支配獲得時における資産負債の帳簿価額とその公正価値の差額によって構成されるのれんの存在を指摘しています。支配獲得時に被取得企業の資産負債及び結果としての純資産は公正価値によって計上され直されることが原則です。

 

なので、その原則がしっかりしているのであれば、この構成要素1に記載された差分はのれんの構成要素とはならないはずです。

 

しかし、実務的には重要性の観点から必ずしも全ての資産負債を公正価値に置き直すことをしない場合もあるかもしれません。

 

そのような場合にはのれんの構成要素の一部に上記差分が含まれることがあるということを構成要素1では示唆しているものと考えられそうです。

 

それでは次に構成要素2を見ていきましょう!

 

構成要素2:
被取得企業が以前には認識していなかったその他の純資産の公正価値。それらは、認識の規準に合致していなかった(おそらく、測定上の困難のため)か、当該資産に認識を禁止する要求事項か、又は被取得企業が当該資産を個別に認識する費用は便益によっても正当化されるものではないという理由により、認識されていなかったかもしれない。

 

これもあまり想定されないケースかと思います。支配獲得時に改めて被買収企業の財務諸表を精査したところ、簿外資産や簿外負債が発見されたというようなケースでしょうが、少なくとも理論的には存在しないものです。

 

むろん、実務においては生じるうる可能性は否定できません。

 

特に非上場会社を買収してきた場合はこのようなケースも散見される可能性があります。

 

次に構成要素3です!

 

構成要素3:
被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値。継続企業要素は当該純資産を別々に取得しなければならなかったとした場合に予想されるよりも高い収益率を、確立された事業が純資産の集合体に対して稼得する能力を表すものである。当該価値は、当該事業の純資産の相乗効果及びその他の便益(例えば、独占的利益を得る能力や、法的及び取引コストの両面からの潜在的な競争者の市場への参入に対する障壁を含む、市場の不完全性に関する要因など)から生じる。

これは被買収会社が企業結合などとは関係なく、そもそも被買収会社が有しているキャッシュフロー生成能力のことをさしています。
面白いのは、単純に資産を別々に持っているのみではなくそれらを組み合わせることで、よりキャッシュフローを生成することができるような力のことをここでは指していると言えます。
このことを直感的に理解するためには、「靴」を考えてみると良いでしょう。
靴は片方だけしかない場合と両方揃っている場合では価値が全然異なります。
物質的な意味合いとしての靴は片方のみであっても、両方あっても、一つ一つという意味では同じかもしれませんが、靴はそれを履いて外に出かけたりスポーツをしたりするためものですので、その目的を達成できない場合は価値が下がると考えられます。

 

構成要素4:
取得企業と被取得企業の純資産及び事業を結合することにより期待される相乗効果及びその他の便益の公正価値。当該相乗効果及びその他の便益は、企業結合ごとに特有のものであり、異なる企業結合では異なる相乗効果が創出され、したがって異なる価値が創出されることになる。

 

これはいわゆるシナジー効果と呼ばれているものをさしています。
被買収会社のみで事業を行なっていた場合よりも買収され買収会社の有形無形のノウハウが被買収会社に提供されることで、被買収会社のキャッシュフロー獲得能力が上昇することをさしています。

 

構成要素5:
提示する対価を評価する際の誤謬により生じた、取得企業が支払う対価の過大評価。全額現金での取引における購入価格では、測定上の誤謬は関係しないが、取得企業の持分が関連する取引に関しては必ずしも同じことがいえない。例えば、日常的に取引される普通株式の数は、企業結合で発行される株式の数と比較して少ないかもしれない。その場合には、企業結合を実行するために発行された株式のすべてに現在の市場価格を帰属させることで、当該株式を現金で売買して、その現金を企業結合に使用する場合の株式の価値よりも、高い価値を創出することになる。

 

これは現金以外の対価によって買収対価の支払いが行われた際に生じる可能性があるものであり、本来的な意味合いでののれんを構成するものではありません。
単純な測定上の誤りとも言えます。
実務的にもあまり出てくる要素ではないと思われますので、そこまで気にしなくても良いかと思います。

 

構成要素6:
取得企業による過大支払又は過少支払。例えば、被取得企業に対する入札の過程で価格が引き上げられる場合に過大支払が生じるかもしれない。
過小支払は強制売却(投売りとも呼ばれる)の場合に生じるかもしれない。

 

これはビット形式になり買収価格が跳ね上がったりした際に生じます。
つまり本来的な意味合いでののれんを構成するものではありませんが、買収価格と純資産の差分としての定義であるのれんとしては、その金額に含まれてくることになります。
この意味で、IFRSの基準書ではのれんに含まれることがあると記載しています。

 

今までの議論をまとめてみましょう。

[box05 title=”のれんの構成要素“]
IFRSには構成要素として6項目の記載があるが、のれんの本質的な意味合いからして重要なのは、
①被買収会社がそもそも有しているキャッシュフロー生成能力
②買収会社と被買収会社が協業することで生じるシナジー効果
の二つでしょう。
もっとも、実務的には構成要素6の過大分なども重要になってくる局面はあるでしょう。

[/box05]

 

のれんと無形資産の関係性

 

のれんがBSに計上されるのは自己創設のれんが現行会計基準において禁止されていることから、M&Aの際に原則として限定されます。

 

のれんの計算の仕方簡易版で説明したとおり、のれんの金額は簡易的には買収対価ー被買収会社の純資産として計算されます。

 

しかし、実務的には、いや、正確に言えば、IFRSや米国会計基準上においては、単純にこの計算式によって、のれんの金額を決定することはできません。

 

なぜでしょうか??

 

それは、無形資産の認識を監査法人から求められることが多いからです。

 

理屈はこうです。

 

企業がM&Aをするのは、被買収会社のなんらかの無形の資産を獲得したいからだ、例えば、優良顧客を抱えている会社を買収した場合にはそのような優良顧客のリストが無形資産になるし、他社にはない技術力を根拠に買収したのであれば、そのような技術力が無形資産になる。

 

このように解して、無形資産の計上を求められることになります。

 

そして、無形資産は償却することが原則です。

 

これに対して、IFRSおよび米国会計基準ではのれんは非償却が原則でした。

 

なので、IFRSおよび米国会計基準では、のれんは買収対価ー被買収会社の純資産として計算されるのではなく、「買収対価ー被買収会社の純資産ー認識した無形資産」となるのです。

 

 

以下は有価証券報告書の企業結合に関する注記から、無形資産の計上例を抽出したものです。日本の会社で無形資産を計上している場合の事例がわかるので、自社の会計処理を決定する際の参考となるでしょう。

顧客関係資産
(顧客関連資産)
日本写真印刷、藤森工業、リクルートホールディングス、帝人、ウィザス、東京センチュリー、武蔵精密工業、綜合警備保障、メタウォーター、トランコム、三井住友ファイナンス&リース、シチズン時計、博展、ダイキン工業、大同メタル工業、三井住友フィナンシャルグループ、アルファグループ、レンゴー、 関西ペイント、資生堂、日本経済新聞社、日本電気硝子、横浜ゴム、パソナグループ
商標権 日本写真印刷、リクルートホールディングス、帝人、カドカワ、武蔵精密工業、ダイキン工業、レンゴー、関西ペイント、ジーエス・ユアサ・コーポレーション、ダイドーグループホールディングス、資生堂、日本経済新聞社、横浜ゴム、日本工営、住江織物
技術関連資産 帝人、武蔵精密工業、テルモ、博展、ダイキン工業、関西ペイント、ジーエス・ユアサ・コーポレーション、日本電気硝子、横浜ゴム、住江織物
契約関連無形資産 サカイ引越センター、イントランス、カドカワ、ジーエス・ユアサ・コーポレーション
仕掛研究開発 日医工、住友化学、大日本住友製薬、テルモ
借地権 ベルーナ、サトレストランシステムズ
販売権 日医工
受注残関係資産 武蔵精密工業
マーケティング関連資産 シチズン時計
FC契約 サトレストランシステムズ
コンテンツ関連資産 アサツーディ・ケイ
ソフトウェア 東陽テクニカ

出所:EY新日本有限責任監査法人(編)「のれん」の会計実務 P24-P25

のれんと減損会計

 

のれんについて減損会計を適用する際に押さえておく必要がある事項は何でしょうか。

[box05 title=”のれんの減損の基本的考え方“]
のれんは通常、それ自体では独立したキャッシュフローを生成しないことから、のれん以外の固定資産における取り扱いと異なり、のれんの帳簿価額を帰属する事業に合理的な基準により分割し、原則としてのれんの帰属事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかを判定する。
[/box05]

 

のれんの理解には欠かせない「資本と利益の区分」と「実現基準」

 

のれんの定義を理解するためには、まずは「資本と利益の区分」の問題について考えてみる必要があります。

 

少しでも会計をかじったことがある人は収益の認識基準として、「実現主義」というものがあることを知っている人は少ないと思います。

 

実現主義はいろんな捉え方や定義の仕方があるのですが、ここでは、一番メジャーな定義をまずは紹介しておきます。

 

[box05 title=”実現主義とは?“]

①企業外部の第三者に対して財貨または役務の提供を行い、
②その対価としての現金および現金同等物を受領した
時点で収益を認識する基準です。

[/box05]

 

 

 

この実現主義は収益の認識基準であるという説明がなされているので、それ以上考えることもないことが普通でしょう。

 

しかし、少し考えるとこの基準はあくまでも収益のタイミングを決める基準であって、そもそも収益として認識して良いものなのかどうかを決めるものではないということがわかります。

 

どういうことでしょうか?

 

結論から先取りしてしまえば、企業にキャッシュフローの流入があった際にそれを収益とみなすか、それとも資本とみなすかは、「資本と利益の区分」の問題として、企業会計上もっとも重要な論点として設定されているのです。

 

ですので、まず、①企業にキャッシュフローが流入してくる、そして、②そのキャッシュフローが収益なのか資本なのかを判断した後に、③今度はいつ収益として認識すべきが問われることとなります。

 

大事な考え方ですのでまとめておきましょう。

[box05 title=”収益認識の基本的考え方“]

①企業にキャッシュフローが流入してくる
②そのキャッシュフローが収益なのか資本なのかを判断する
③いつ収益として認識すべきかを判断する

[/box05]

 

この、”いつ”収益として認識するのかを決めるルールが実現主義と呼ばれているものです。

 

もっとも、実現主義はすでに使われない概念であり、最近新たにリリースされ、当サイトでも紹介しております収益認識の会計基準においては、「履行義務の充足」という考えにリプレイスされています。

 

厳密にいえば、実現主義と履行義務の充足の概念も差異はあるのかもしれませんが、大きな意味で変更があるようには思えません。

 

しかし、「資本と利益の区分」の問題は実は奥深い論点であり、しかも、実はこのルールはあまり明確なものではありません。会計学的にも実はこれは不明確なルールで運用しているものという感じなのです。

 

企業に流入してきたキャッシュフローが収益なのか資本なのか。このような企業会計において、とても大事なことを決めているはずのルールが企業会計では体系だって説明がなされているわけではなく、実務上の積み重ねで判例のように決まっているのです。

 

この辺りが会計の面白いところでもあり、しかし難しいところでもあります。

 

 

 

そもそものれんって償却すべきなのか?減損のみで行くべきなのか問題

 

のれんの償却、非償却の問題。

 

まずはこちらをご覧ください。

 

会計基準 償却するか否か
日本基準 償却する
IFRS 償却しない
米国会計基準 償却しない

 

日本基準はのれんの償却もするし、かつ減損も認識します。

 

これに対して、IFRSと米国会計基準ではのれんの償却はせずに、減損テストのみで費用化を判断することになります。

 

日本基準における減損は毎期必ず実施するものではなく、減損の兆候が存在する場合に減損テストを実施することになっています。これに対してIFRSと米国基準では毎期必ず減損テストを実施することになっています。

 

これは会計学や監査を担う会計士につきまとう大きな問題の一つです。

 

会計学や会計士からすると、のれんについては償却すべきと考える人は多いと思います。

 

むろん、のれんが非償却となったのは政治的な妥協の産物であるということも会計の学者の中ではコンセンサスが概ね取れているものと思われます。

 

企業結合に関する会計基準の中で、パーチェス法と持分プーリング法の二つがあったのですが、このうち持分プーリング法は乱用が懸念されており、廃止することが必要である基準設定主体は考えました。

 

しかし、この基準の変更に対して異論を唱えたのは産業界でした。

 

産業界ではM&Aをして企業をどんどん大きくしていく必要があるにも関わらず、持分プーリング法を廃止してしまったとしたら、M&Aを実行した場合は必ずのれんを計上することになってしまい、のれん償却額の大きな負担が企業経営にのしかかることになるからです。

 

基準設定主体としては何としても持分プーリング法は廃止しないといけないと考えていましたので、そのためには産業界が反対するのれん償却額の負担を回避することをバーターとして、非償却を受け入れたのです。

 

このような背景があることから、のれんの非償却は理論的な根拠があったわけではないということが実情となります。

 

IFRSを作成しているIASBは従前は非償却の方が理論的な会計処理であるという立場でありましたが、最近は少しトーンを変えてきており、いずれ、IFRS上でものれんは償却となる可能性が高まってきています。

 

これは一般的に言われている資産負債アプローチ対収益費用アプローチとの対比として整理することができるかもしれません。

 

というのは、IFRSは一時期資産負債アプローチで会計基準を作成することが善であるという考えのもとで、利益に対する資産負債の優位を打ち立て、基準を作っていました。

 

むろん、この傾向は現在もあります。

 

例えば、新しくリリースされた収益認識の会計基準(これは日米欧の三つの基準で概ね同タイミングで公表されました。内容としては細かい点で若干の差異はあるものの収益を認識するためのフレームワークはほぼ変わりません。)はどちらかといえば資産負債アプローチにより作成された基準であるといえそうです。

 

しかし、上述のようにのれんの非償却はそもそも会計の理屈から演繹さえたものではないため、非償却のための理屈をそのままにしておくと、会計の他の箇所にまでダメージが残ることになります。

 

のれんの税務

 

のれんの当初認識時(当初認識時→主にIFRSにおいて使われる文言ですが、最近では日本基準でも使用されるようになっています。初めて、のれんを認識するタイミングのことを言います。)の税効果については認識しないということが会計基準では原則です。

 

これは取得価格の配分の議論の中において生じるものであり、支配獲得時に全くのれんに関する税効果を認識しないということではありません。

 

のれんについても税効果を認識することがあります。

 

それは、税務上ののれんである「資産調整勘定」が生じる場合です。
この場合は資産調整勘定が将来減算一時差異として識別されることとなるために回収可能性を考慮した上で、当該将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上することとなります。

のれんに関する学説まとめ

主観のれん説

これは大日方隆教授が提案している会計理論のことを言います。

 

のれんに関する知識をつけるために役に立つ書籍のご紹介

「のれん」の会計実務

 

のれんに関する実務は実は結構幅が存在します。

 

それは会計基準に明確に記述されているケースが少ないためです。

 

一般的に監査法人が出版する会計実務の本では、できるだけ会計基準に記載されている表現をリファレンスしようとするため、実務において痒い所に手が届く本は多くはありません。

 

とりわけ、それがのれんのような学説的にも実務的にも難しい議論となればなおさらです。

 

本書ではそもそものれんとは何か?というところから解説が始まり、のれんにまつわる会計処理が横断的に詳細に記載されています。

 

経理担当者や監査を担う公認会計士にとっては必読の書であると言えそうです。

 

会計基準の研究

 

本サイトでも一度紹介したことのある書籍です。

著者は会計学の世界で知らない人はいないであろう元ASBJ委員長の斎藤静樹先生です。